ニューズレター第62号(2026/01/27発行)
帝京大学ラーニングテクノロジー開発室
No.62
NEWS LETTER
発行責任者 小島 一晃
広島大学のノートパソコン必携制度から見る “授業での教育的活用” のポイント
来年度から本学でも BYOD制度 が始まります.本記事では,制度を先行して導入してきた広島大学の事例をもとに,授業での教育的活用に役立つ視点を中心にまとめます.
◆学生の学び方は変化している:活用が学年とともに増える
広島大学の5年間の調査では,PCの利用頻度は学年が上がるほど増えています[1].週4〜5日持参する割合が年々高くなり,日常的な学修ツールとしてPCを使う行動が自然に根付いていることが確認されています.

図1:PC をどの程度大学に持ってきていたか
また,2019年度には約8割の学生が「制度があってよかった」と回答しており,以下のような回答が見られました(学生自由記述)[1].
- PC スキルが身につく
- どこでも課題に取り組める
- 将来の仕事に役立つ

図2:必携制度があって良かったと思うか
◆授業設計で見えてくるPC活用のポイント
制度があるだけでは学びは変わりません.広島大学の教員アンケートからは,授業設計次第でPCの教育的価値が大きく変わることが読み取れます.
(1)授業のどこでPCを使うかを明確にする
学生の自由記述では「PCを持ってきても使うのかわからない」という声があります[1].授業のシラバスや連絡事項等で,どの時間帯にどの目的で使うのか等を明示しておくと良いでしょう.
(2)PC活用は学習活動の幅を広げる
アンケートでは「授業で必携PCを持ってくるように指示をしたことがあるか」については,初年度の2割弱から年々増加し,5年後には45%ほどになっています.授業内での利用は,情報検索,データ処理,プレゼンテーション,LMSを使った課題提出など多岐にわたっています[1].
授業内での自然な利用場面を増やすことが,BYODの利点を最大化します.

図3:必携PCの授業の中での利用形態
(3)学生のPCスキル差を見越した準備
教員アンケートでは,授業中に学生のPC操作で授業が止まってしまうケースが報告されています[2].
このことから,以下のような工夫が効果的であることが分かります.
- 必要なPC操作を事前に知らせる
- 事前学習資料(ショート動画や手順書)を用意する
- 授業内で扱う操作は最小限にし,目的に集中できる構成にする
誰もが同じレベルで操作できるわけではないため,“つまずき”を見越した授業設計がBYOD時代の鍵になります.

図4:教員アンケート 必携PC利用で困った点
◆学内インフラについて(補足)
授業設計が主役とはいえ,学生が安心してPCを使える学習環境が必要です.広島大学のアンケートでも,学生から「Wi-Fiをもっと安定させてほしい」「充電できる場所を増やしてほしい」という声が多数あがっています[2].
広島大学ではWi-Fiのアクセスポイントを全講義室で2.7倍に増設したという報告があり,環境整備が大きな改善をもたらしたとされています[2].インフラは「授業を支える基盤」として重要であり,授業での ICT活用が安定して定着していくための土台となります.

図5:学生アンケート 必携PCを利用するための要望
BYOD時代の授業をデザインする
広島大学の事例が示すのは,BYODは単なる「PCを持ってくる制度」ではなく,授業設計と学習環境の両面を整えることで初めて,教育的な価値が最大化されるという点です.特に教員には,以下の3点が授業づくりの重要な視点として求められます.
- 授業でのPC利用場面の明示
- 学習活動に沿ったPC活用の組込み
- 学生のスキル差を踏まえた配慮
BYOD制度の導入は,教員と学生の双方がICTを学びの道具として再確認する良い機会です.広島大学の取り組みは,制度導入後の定期的なアンケートと改善を重ねながら,「教育のデジタル基盤」としてのBYODを確立してきました.本学でも来年度の制度開始に向けて,学生が安心して活用できる環境整備と,教育の質向上を支えるICT活用を進めていく必要があると思われます.
[1] 天野由貴,隅谷孝洋:必携パソコンの5年間 ~教員・学生アンケートの結果から,情報処理学会情報教育シンポジウム論文集,2020,pp.174-179 (2020-12-12)
[2]天野由貴,隅谷孝洋:広島大学のノートパソコン必携化の取組〜教員・学生アンケートの結果から〜,情報処理学会研究報告教育学習支援情報システム(CLE),2017-CLE-21(6),pp.1-6(2017-03-14)
ICT活用教育レポート 「福岡キャンパスでのBYOD実践事例」
今回は,学内でBYODを先行導入している福岡キャンパスの事例を紹介いたします.福岡医療技術学部診療放射線学科でICT活用教育を実践されております信太圭一先生に,お話しをうかがいました.福岡キャンパスでは2022年度からBYODを導入しており,2025年度の時点で1年生から4年生までが授業にPCを持参しています.

◆BYODの実施状況

授業でのPCやLMSの活用はどのような状況でしょうか?先生や学科による違いはありますか?

違いは,先生の考え方によるのではないかと思います.ICTを使うことも含めて新しい知識だと考える先生は導入しているのではないでしょうか.特に統一はされていません.

BYODの導入をきっかけに,LMSを活用していこうという動きはありましたか?

コロナ禍でLMSを使って授業をするという動きにシフトしていきました.今までLMSを使っていなかった先生も使用を始めて,現在はほぼ全員が使用していると思います.

PC教室がまだ残っている(*1)と思いますが,使い分けはどのようにしていますか?

PC教室は情報処理演習,プログラミングなどICTのスキルを育成する授業で使用しています.これらの授業では電源があることと,環境が同じということが重要です.

◆授業の工夫

PCを使う授業で工夫していることはありますか?

授業の中でアクティブラーニングを取り入れています.例えば「このことについてどう思う?」と質問を投げて,フォーム(Googleフォーム(*2))にリアクションを記入してもらいます.口頭では答えてくれませんが,フォームだとみんな答えてくれるので,意見を集約しています.BYOD以前は,1人1人に問いかけるとかなり時間がかかっていました.

写真や音声,動画といったメディアは活用されていますか?

医療の事件などに関する情報にリンクを貼って共有することはしています.音声は使っていませんが,動画は使っています.
診療放射線学科はレントゲン写真を観察することも重要です.写真を複数枚掲載して,それらを見て考えるグループワークもさせます.意見をまとめてフォームに入力させ,まとめながらなぜこのような写真ができるのかという理由を解き明かしていくような活動です.
Webカメラを持って,骨の標本を映しながら解説する先生もいます.視線を追尾するカメラをつけて,今は患者のここを診ているんだよと教えるというように,ICTを活用しています.学生にも好評です.

メディアを使ってなんだろうと注意をひきつけて,そこから色々な活動につなげていくんですね.

教員が使うPCは,ペン入力ができるといいですね.話しながら書けるというのがいいです.資料を提示するだけでなく,そこに書き込んだほうが,学生の食いつきが良くなります.大事なところをペンで強調するなど.

◆学生の様子

BYODの導入で,学生の授業の受け方は変わりましたか?

1年生は,画面を見ているだけの学生が多いです.3・4年生になるとPCやタブレットを使いながら,レジュメにメモを書き込んだりするようになります.授業の受け方が変わったというより,情報を1つに集約できるようになったのではないかと思います.
以前はPCで(授業とは)違うことをするのではないかと言われていましたが,意外とそうではなく,教員が話す授業よりPCを使う授業のほうが,余計なことはしないと思います.

学生にはどのような教示をしていますか?情報リテラシーの導入教育は,福岡キャンパス全体で実施していますか?

最初にLMSやPCの使い方を教える際に,できるだけ書くものも用意するように指示はしています.
福岡キャンパスでは情報処理演習と,各専門の情報学を開講しています.共通の内容で,最低限の情報リテラシーは指導しています.PCの情報リテラシーと,医療情報のリテラシーです.

課題を電子化すると,友達の答案をコピーする学生が増えることへの懸念もあると思いますが,学生に学習させるためのアイデアはありますか?

プログラミングの課題では,コメントまで一緒になることはありませんので,ファイル丸ごと一緒だったときは友達と両方減点するとは伝えています.

教員は分かっていると伝えることは重要ですね.生成AIについてはいかがでしょうか?

生成AIで出力したのかは判断がつきません.考える力を養う授業ができたらいいと考えています.どうしたらいいか分からないときに生成AIを使ってヒントをもらうのは,いいのではないかと思います.今後はBYODの先に,生成AIとどうやって付き合っていくかを教えなければと感じています.

大学からも生成AIの使い方についてのメッセージ(*3)が出ていますが,禁止するものではありませんので,学生には使い方を知ってほしいですね.ほかに気を付けていることはありますか?

臨床実習では,学内の授業とは異なるため,手書きでレポートを作成させています.実習先の病院からはデジタルのほうがよいと言われましたが,生成AIに書かせることが考えられますので.手で書くことで気持ちが残ることもありますので,申し訳ないですが手書きにさせてもらいました.

(*1) 診療放射線技師であれば厚生労働省の「診療放射線技師養成所指導ガイドライン」において,教育上必要な機械器具として学生1人につき1台のPCが定められています.
(*2) LMSのコース上にリンクを貼ると,学生をスムーズに誘導できます.「BYOD×LMS活用講習コース」(LMS最初の画面で「学期」に「every year」を選択すると出現します)のLMS活用・BYOD実践アイデア集にある「URLリンクで外部の資料を紹介する,外部のサービスへ誘導する」で,Googleフォームへの誘導をご紹介しています.
(*3) 生成AIの利用に関する取り組み, 帝京大学
https://www.teikyo-u.ac.jp/university/action/ai_policy

一言コーナー
10月から始めた各キャンパスでのLMS講習会は,12月で4キャンパスすべて無事に終了しました.事務作業を支えてくださった職員の皆さま,ご協力本当にありがとうございました!
LMSは多くの方にご利用いただいており,利用状況もさまざまであったことから,試行錯誤しながらの講習会となりました.来年度はいよいよ新バージョンのコースで授業が始まります.移行方法や教材作成・採点でご不明点がある際は,LMSサポートサイトをご活用ください.お問い合わせも随時受け付けております.





